WEB制作・運用の際に覚えておきたい法律の知識
普段なにげなく発注しているWEBサイト制作や、自社で行っているWEBサイトの運用。
そこには様々な法律が関係しています。
本コラムでは、WEBサイト制作の契約にかかわる法律から制作物の内容に係る法律まで、WEBサイト制作を行う上で抑えておくべき法律をまとめました。
目次
著作権法
著作権法は、著作物を創作した者が持つ権利を保護する重要な法律です。WEBサイト制作においても、著作権法の理解と遵守は欠かせません。多くの発注者が「お金を支払って制作を依頼しているから当然自社のものだろう」と考えがちですが、実際には「著作者(デザイナー/制作会社)」に著作権が帰属します。
発注者が著作権を持つケースは、制作委託契約などで特別に定められている場合のみです。それ以外の場合は、制作したWEBサイトの著作権は制作会社に属し、発注者はその利用権を得る形となります。誤解や不明確な契約内容から、発注者と制作会社の間でトラブルが生じることも少なくありません。
著作物の改編・修正にも注意
著作権が制作会社に帰属することにより、発注者が制作物を自社で改編・修正する場合には注意が必要です。著作権違反となる可能性があるため、無断での改編や修正は法的な問題を引き起こすことになります。このようなトラブルを避けるためにも、契約時に著作権の取り扱いについて十分な取り決めを行うことが重要です。
発注者と制作会社は、契約書において著作権の帰属や利用範囲、改編・修正の条件、著作権譲渡の有無などを明確に取り決めるべきです。また、納品前に著作権に関する明確な情報提供や合意を確認することも大切です。適切な契約の締結とコミュニケーションにより、双方が納得した取引が成立し、トラブルを未然に防ぐことができます。
著作権法を遵守し、著作者と発注者の権利を尊重する姿勢は、良好なビジネス関係を築く上で不可欠です。発注者と制作会社が協力し、クリエイティブな成果物を提供するためには、法律の遵守と契約上の明確な取り決めが不可欠です。
薬機法
薬機法は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保を目的とした法律です。WEBサイトの制作や運用においても、この法律に注意を払う必要があります。実際に、薬機法を知らずに制作会社に指示した内容が薬機法違反だったというケースが多く見られます。
薬機法では、以下のような規制が存在します。
虚偽や誇大な広告の禁止
虚偽や誇大な広告は禁止されています。WEBサイトでの医薬品や医療機器の宣伝において、事実と異なる情報を提供したり、過大な効果を謳ったりすることは法律違反です。特に、美容系商材では「治る」「痩せる」「アンチエイジング」といった文言に注意が必要です。
未承認の医薬品や適正広告基準に違反する広告の禁止
未承認の医薬品や適正広告基準に違反する広告も禁止されています。未承認の医薬品を宣伝することは法的に許されておらず、適正な審査を経て承認された医薬品のみが宣伝対象となります。また、医薬関係者等による推奨行為や情報提供の禁止も重要なポイントです。
美容整形やダイエット前後のBefore/After写真なども、薬機法の規制対象となります。これらの情報は効果の保証が難しく、個別の症例によって結果が異なる場合があるため、注意が必要です。虚偽や誇大な表現にならないよう、真実性や客観性を重視した情報提供が求められます。
景品表示法
景品表示法は、消費者が勘違いをするような誇大広告や、過大な景品の提供を規制する法律です。特にWEBサイト運営者にとっては、この法律を遵守することが極めて重要です。
2倍の美肌効果との記載だが客観的なデータがない
まず、客観的なデータのない「2倍の美肌効果」といった記載は景品表示法に違反します。著しく効果を誇張している表現は消費者を惑わせるものであり、信頼性の欠如を招く恐れがあります。そのため、適切な根拠や科学的なデータを提示しなければなりません。
養殖物を天然物と記載
また、養殖物を「天然物」と偽って表示することも景品表示法に反します。消費者は正確な情報に基づいて商品を選ぶ権利を有しており、虚偽の表示は消費者の選択を誤導することになります。商品の成分や原材料に関しては、真実を明確に伝える責任があります。
プレゼント企画の当選者数が予定数より少ない
さらに、プレゼント企画の当選者数が予定数よりも少ない場合も景品表示法に抵触します。消費者に対して適切な情報を提供するためには、企画の実施に伴う変更や制約についても正確に伝える必要があります。予定数に満たない場合は、当選者数の変更を適切に告知することが求められます。
これらの違反行為は、消費者の利益を害し、企業の信頼性を損なう可能性があります。景品表示法の遵守は、企業の社会的責任として重要です。違反行為が発覚した場合、法的な制裁や損害賠償請求などのリスクが存在します。
WEBサイト運営者は、景品表示法に基づいた正確な情報提供と適切な広告表現に努める必要があります。誇大広告や虚偽の表示は避け、消費者に対して真実を明示することが求められます。信頼性と透明性を重視した運営方針を策定し、消費者との信頼関係を築くことが重要です。
下請法
下請法は、発注者の資本金が1千万円を超えている場合に適用される法律であり、WEBサイト発注者にとっても重要な法律です。この法律は、取引の公正性と透明性を確保するために、様々な義務を課しています。
取引条件を明確にした書面の交付
まず、下請法では「取引条件を明確にした書面の交付」が義務付けられています。つまり、発注者と受注者の間で契約を締結する際には、明確な取引条件を文書として交付する必要があります。これにより、双方の権利と義務が明確に定められ、トラブルの発生を予防することができます。発注者は、受注側に対して取引条件を明示し、合意を得ることが重要です。
成果物受領後60日以内に代金を支払う
下請法は「成果物受領後60日以内に代金を支払う」ことを義務付けています。発注者は、受注したWEB制作物や運用業務の成果物が納品された後、遅滞なく支払いを行わなければなりません。支払いの遅延や未払いは法的に問題となり、遅延損害金の支払い義務も発生します。遅延損害金は、支払いが遅れた場合に受注側が受ける損害の補償として課されるものです。
以上の義務を遵守することにより、発注者は公正な取引を実現し、信頼性のあるパートナーシップを構築することができます。また、受注側も自身の権利を守り、適正な取引条件での契約を求めることができます。
WEBサイトを発注する際は、下請法を遵守することで、信頼性のある受注者との取引を確保することが重要です。取引条件の明確化や支払いの適時性は、双方にとって公正な取引環境を構築するために欠かせません。したがって、発注者は適切な契約書の作成や支払い管理の徹底を行い、下請法の要件を遵守するよう努めましょう。
独占禁止法
独占禁止法は、市場における競争を促進し、公正な取引環境を実現することを目的とした法律です。特にWEBサイト発注者にとっては、この法律の重要性を理解し、遵守することが求められます。
独占禁止法の目的と重要性
独占禁止法では、「優越的地位の濫用」を禁止しています。これは発注者が自身の優位な地位を利用して、受注側に不利益な要請をすることを防止するための規定です。例えば、発注者が一方的に金額を決定したり減額したりする行為、成果物の受領を拒否する行為は独占禁止法に反します。これらの行為は受注側に不利益をもたらし、公正な競争や取引の原則に反するものです。
発注者の役割と遵守すべきポイント
WEBサイト発注者は、独占禁止法を遵守することで、公正な取引環境を維持し、健全な競争を促進する役割を果たすことが重要です。発注者は、受注側との交渉や契約において、公平かつ透明な手続きを尊重し、受注側に対して適正な条件での取引を提供する責任があります。また、一方的な要求や不当な圧力をかけることは避け、適切な合意や契約の形成に努めるべきです。
独占禁止法の遵守は、発注者の企業イメージや信頼性の向上にも繋がります。公正な取引を実践することで、優れた受注者との関係を築き、優れた成果物の提供や適正な価格形成を実現することができます。また、独占禁止法の違反は、法的な制裁や損害賠償請求などのリスクを伴います。したがって、発注者は法律を遵守し、公正な取引を実現するためのガイドラインやポリシーの策定、従業員への適切な教育を行うことが重要です。
個人情報保護法
2022年4月に改正。個人の権利と利益を保護することを目的とした法律です。Google Analyticsなどを導入してWEBサイトの閲覧データを第三者に提供している場合は、閲覧者の同意が必要となります。最近、Cookie同意バナーがWEBサイト上に表示されるのは、この改正の影響によるものですね。
個人情報保護法の目的と重要性
個人情報保護法は、個人情報の取り扱いに関する法律であり、個人のプライバシーを守り、情報漏洩や不正利用を防ぐことを主な目的としています。WEBサイト制作においては、利用者から提供された個人情報(氏名、メールアドレス、住所など)の保護が大切な責務となります。発注者は、個人情報保護法の遵守を徹底することで、利用者の信頼を獲得し、違法行為やリスクを最小限に抑えることが求められます。
Google Analytics等の利用と同意の必要性
WEBサイト運営においてGoogle Analyticsなどのアクセス解析ツールを利用することは一般的ですが、このようなツールによって収集される閲覧データは個人情報として扱われることがあります。個人情報保護法の改正により、これらの閲覧データを第三者に提供する場合は利用者の同意が必要となりました。具体的には、Cookie同意バナーの表示や利用者への選択肢の提供などが求められます。発注者は、WEBサイト制作時にこのような同意機能を組み込むことで法令遵守を実現し、利用者との信頼関係を築くことが重要です。
プライバシーポリシーの重要性
個人情報保護法の遵守には、WEBサイトにプライバシーポリシーを掲示することが必要です。プライバシーポリシーは、利用者への情報提供と透明性を保つための重要な文書であり、個人情報の取り扱いに関する方針や目的を明確に示す必要があります。発注者は、制作会社に対して適切なプライバシーポリシーの作成を依頼し、適時の更新と遵守を確認することで法的リスクを回避しましょう。適切なプライバシーポリシーの掲示は、利用者との信頼関係を築き、WEBサイトの信頼性を向上させる重要な手段となります。
特定電子メール法
特定電子メール法の目的と範囲
特定電子メール法は、迷惑メールなどを規制し、電子メールの利用における信頼性を確保することを目的とした法律です。特にメールマーケティングを行う企業や個人にとっては、この法律の遵守が重要なポイントとなります。特定電子メール法は、「特定電子メール」と呼ばれる広告や宣伝目的の電子メールに対して適用されます。
特定電子メール法の遵守ポイントとリスク
特定電子メール法には、厳格な規制が含まれており、違反した場合は制裁金などの罰則が科される可能性があります。具体的には、以下のような行為が違反に該当します。
送信者情報を偽った送信
誤った発信者情報を表示してメールを送信する行為は違法です。送信者情報は真実のものを表示することが求められます。
受信者に許可を得ずに広告宣伝メルマガ送信
受信者からの許可を得ずに、広告や宣伝目的のメルマガを送信することは法律違反です。
特定電子メール法の遵守は、メールマーケティングを行う企業や個人にとって重要な課題となります。違反が発覚した場合、制裁金の支払いや企業の信頼性低下、法的な問題に直面する可能性があります。したがって、発注者は制作会社に対して、特定電子メール法の遵守を徹底するよう指示し、適切なメールマーケティングの手法を導入することが重要です。
名刺交換と特定電子メール法の例外
特定電子メール法には、名刺交換した相手に対してメルマガを送信する例外があります。ただし、この場合でも、メールの内容が広告や宣伝目的であることを明確に伝える必要があります。名刺交換によって個人の連絡先を得た後でも、受信者に不快感を与えるような内容のメールを送信することは避けるべきです。企業は特定電子メール法の例外を慎重に扱い、名刺交換後のメールマーケティングにおいても個人情報の保護と利用者の利益を尊重する姿勢が求められます。
不正アクセス禁止法
不正アクセス禁止法の目的と重要性
不正アクセス禁止法は、その名の通り、コンピューターシステムへの不正なアクセス行為を禁止する法律です。この法律の主な目的は、サイト運営者やデータの管理者が適切な対策を講じ、情報資産を保護することで、セキュリティの向上と不正アクセスによる被害を防止することです。不正アクセスは、個人情報や重要なビジネスデータの漏洩、システムの乗っ取り、サービスの妨害などを引き起こす危険性があります。そのため、WEBサイト制作においては、不正アクセス禁止法を遵守し、適切なセキュリティ対策を行うことが重要です。
不正アクセス禁止法の具体的な要件と対策
不正アクセス禁止法には、以下のような具体的な要件が含まれています。これらの要件を理解し、適切な対策を講じることが重要です。
定期的なシステム更新とバックアップ:サイト運営者は、システムやソフトウェアを定期的に更新することで、既知の脆弱性やセキュリティの問題を修正し、攻撃から保護する必要があります。また、定期的なバックアップを行うことで、データの損失を防止し、被害を最小限に抑えることができます。
サーバーサイドでのセキュリティ対策:サーバー側のセキュリティ対策も重要です。不正アクセスを防止するために、ファイアウォールの導入や不正なリクエストを遮断するフィルタリングの設定などが求められます。
不正アクセス検知ツールの導入:不正アクセスを検知するためのセキュリティツールの導入も重要です。侵入検知システム(IDS)や侵入防止システム(IPS)などを活用して、不正なアクセスを監視し、早期に対応することが大切です。
不正アクセス禁止法の遵守とリスク対応
不正アクセス禁止法の遵守は、WEBサイト運営者にとって重要な法的義務です。法律違反が発覚した場合は、違反者に対して罰則が科される可能性があるだけでなく、企業の信頼性やブランドイメージにも影響を及ぼすリスクがあります。不正アクセスに対する適切な対策と定期的な監視・更新が求められるため、専門家のアドバイスを受けながら、セキュリティ対策を強化していくことが大切です。また、不正アクセスによる被害が発生した場合は、適切な対応と被害の回復措置を迅速に行うことが重要です。
改正プロバイダ責任制限法
2022年10月に改正。WEB上の誹謗中傷に対してSNS等のサービスプロバイダへの開示請求に係る法律です。改正によって手続きが簡易化され、迅速に開示請求できるようになりました。WEB制作、運用というよりも、会社としてのSNS等の運用ガイドラインを準備したり、従業員のITリテラシーを高める必要があります。誹謗中傷やプライバシー侵害などのトラブルが発生した場合、開示請求が容易になったため、被害者は迅速に情報の開示を求めることができます。
情報管理・監視体制の整備が重要
WEB制作・運用に関わる企業や個人は、社内での情報管理や適切な監視体制を整えることが重要です。また、顧客のプライバシーを保護するため、個人情報保護法にも留意する必要があります。適切なセキュリティ対策やプライバシーポリシーの明示、個人情報の取り扱いに関する同意の確保などが求められます。
社内教育の重要性
さらに、社内での教育や意識啓発も重要です。従業員がインターネット上での適切な行動を理解し、不正アクセスや著作権侵害などを防ぐためには、定期的な教育プログラムやガイドラインの策定が有効です。
これらの法律に対する理解と遵守は、企業の信頼性向上や法的トラブル回避につながります。法的なリスクを最小限に抑えながら、適切かつ安全なWEB制作・運用を行うために、常に最新の法律情報に目を光らせ、適切な対策を講じることが不可欠です。